そらごとそうこ
ここは、戦.国.無.双.2 (戦.国時代)の二次創作メインサイト。 ナチュラルにほもを含みます。苦手な方は、急ぎ足でどうかお逃げ下さい。気分を害されても責任もてませぬ。(携帯から見ると画面が多少おかしなことになっているかもしれません。←ご指摘頂けると幸い) なお版権元さまゲーム会社さまとは関係ございません。全て萌え故の妄想でございます。
2008'10.18.Sat
前サイトからの移動です。
これって、どのカテゴリにいれればいいんだろうとおもいつつ、とりあえず三幸にいれてみたり…
幸村>三成>>>>>左近 & 幸村>兼続>景勝
と、いうおはなしです。
とある御方とのメールのやりとりで書くに至った、佐和山主従(言葉の裏に本音を隠せる)
と上杉主従(目だけで会話ができる)に、振り回される幸村……
の、はずだったんですが、出来上がってみたらどうにも幸村に振り回される皆様になって
しまいました。あ、あれ……?
※反転していただくと、両主従の心の声(とツッコミ)が出ます。
これって、どのカテゴリにいれればいいんだろうとおもいつつ、とりあえず三幸にいれてみたり…
幸村>三成>>>>>左近 & 幸村>兼続>景勝
と、いうおはなしです。
とある御方とのメールのやりとりで書くに至った、佐和山主従(言葉の裏に本音を隠せる)
と上杉主従(目だけで会話ができる)に、振り回される幸村……
の、はずだったんですが、出来上がってみたらどうにも幸村に振り回される皆様になって
しまいました。あ、あれ……?
※反転していただくと、両主従の心の声(とツッコミ)が出ます。
author : hiyuki 2007.08.19 |
そろそろ無礼講の様子を呈してきた広間は、既に出来上がりつつある者たちのガヤガヤとした楽しげな声と、むせ返るような酒の匂いに満ちている。
弱い者ならこの空気だけでも参ってしまうに違いないが、そこそこ酒に強く、かつそれほど呑んでもいない幸村は、なんとなくこの浮ついた空気から取り残されたような気分を味わっていた。
無意識ながらに、またひとつホウッと寂しげな息を吐く。それを見咎めたのか、幸村の耳に、すぐとなりに腰を下ろしている人の声が低くささやいた。
「どうかしたか、幸村」
「あ……、いえ、なんでもありません」
幸村は答え、はっとして苦笑を付け加えた。
「少し、酔ってしまったのかもしれません。きっと呑みすぎたのでしょう」
「そうか……それなら、もう下がって休め。秀吉様には、俺が」
やさしげな声と、気遣いの表情を添えられて、幸村はいそいで首を振った。
「い、いえ、それには及びません。少し休めば、大丈夫ですから」
「そうか……? それなら良いが…」
なおも幸村を気遣ってくれようとする三成に、「はい」としっかり頷いてみせ、精一杯にほほえむ。
そうすると三成は、きゅっと寄せられた眉をそのままにしながらも、もとのように彼の隣に腰を据えていた兼続に向き直った。
三成の興味が兼続に戻ったことを知って、幸村はほっと胸をなでおろす。
とっさのこととはいえ、つい口をついて出てしまったそれらしい言い訳のせいで、三成にいらぬ心配をかけてしまったようだ。ほんとうに気分を悪くしたわけでも、酒に酔ったわけでもなかったから、うまくごまかせて安堵した反面、どうしようもなく申し訳ない気持ちになる。
酒宴のざわめきのなかから、
「幸村がどうかしたのか?」
「いや、少し酔ったらしい」
「なら、休ませてやったほうがいいのではないか?」
――と、いった、まだ気遣ってくださる兼続らのやさしげな声が耳にとどいて、幸村はさらに頭を下げたい衝動にかられた。
(邪魔を、してしまった)
つまらないことで、二人の話の腰を折ってしまった己の至らなさにしゅんとなる。
……分かっていた。
先程からうまく酒に酔えないのも、ちくちくと胸が痛むのも、三成と兼続、この二人の会話の中にうまくはいっていけない己をふがいなく思うからだ。
(だからといって、邪魔したかったわけではないのに)
なのに、意図せず吐いたため息がその役目を果たしてしまって、なおさらいたたまれなくなる。
(今日の酒宴がはじまってからずっと、お二人だけで話されているといっても…)
それを邪魔する権利など、幸村にはないだろう。
しかしこうなるたび常々思うことは、敬愛する友の二人が、やけに遠い人のように感じるということだ。
三人でたわいない話をしているときはそうでもない。
だが、ひとたびそこに仕事の話が入り込んでくると、とたんに幸村はついてゆけなくなる。それが戦の話――たとえば、戦略や城の落とし方など――ならば、臆することなく発言もできるが、それが治世や貿易、検知のこととなってしまうといけない。
決して、幸村がそれらに関して疎いというわけではなかったが、彼らとの立場の違いが口を重くしてしまうのだ。
佐和山城主である三成と、上杉家筆頭家老として采配を振るう二人の間に、国一つもたないただの将である幸村が、わざわざしゃしゃり出る必要などない。
そう、思うばかりに、気がつけばぼんやりと二人の声に耳を傾けているしかなくなる。
それは友二人との立場の違いを、否応にも見せつけられるようで、少し胸が痛い。
(それに……)
幸村は、またしても零れそうになったため息を何とか呑み込んで、ちらりと二人を眺め見た。
――こうして、真剣な顔つきで話し合う二人のその御姿の、なんと美しいことか。
もともとが麗しい二人だが、多く人が集まる席にあればあるほど、その器量の良さがいかに人並み外れているかに気付かされる。
幸村に絵の才があれば、この瞬間を紙の上に描きとめただろう。歌を詠むのに優れていれば、筆を動かしただろう。
それほどに、友二人が並ぶ姿は美しい。先程から、酒気を帯びた目で、まるで鑑賞するようにちらちらと二人に視線を流す者達だっている。
そんな二人の間に割って入るにも、凡庸な見目である(と、思っている)幸村には少々勇気が要ることだ。
と、そこへ、三人の傍でまったりと杯を傾けていた人からの声がかかった。
「ちょいといいですかね」
「左近殿…!」
三成と幸村の間にぬっと顔を出した左近は、小さく会釈して言った。
「殿、とーの、お話があるんですが」
気付かずに兼続との話を続けていた三成の肩をゆさぶり、彼は継げる。
「少しなんで、聞いてもらえませんかね」
三成は少々不機嫌そうな顔つきで、左近を振り返った。*
「なんだ左近」(というか貴様、俺と幸村の間に割り込むとはいい度胸だな)
「いえね、今日はいつもよりも酒がすすんでらっしゃるように見えましたんで。いちおう言っておこうかと」(すみませんね、話が終わったらどきますよ)
「それがどうした」(いますぐ、消えろ。幸村が穢れる)
「呑むのは構いませんが、ご自分の体調を考えてくださいね。明日も普通に政務がありますから」(穢れるって……、なんで左近が近づくと穢れるんですか)
「そのくらいのこと、わかっている。余計な世話だ」(ハッ。加齢臭がうつる)
「はあ……」(か、加齢って……! さすがにひどいですよ、殿)
「わかったなら、もう邪魔をするな」(というか幸村が見えん!気配が遠い!)
「はいはい、わかりましたよ」(…すいませんねえ。もう好きにしてください)
左近は、やれやれというように肩をすくめた。己の言が聞き入れられなかったことで気落ちしたように席を立とうとしたが、幸村には、その瞬間三成の顔つきがやわらかくなったのがわかった。
迷惑そうな口ぶりでも、きっと左近の気遣いを、三成なりに嬉しく思っているのだろう。(ただしくは、左近がどいたことに満足しただけなのだが)
「左近殿」
そう、思った瞬間、幸村は左近を呼び止めていた。
「……あの」
「ん? どうした、幸村」
幸村が腰を下ろしていて、左近は立っているのだから仕方がないが、幼い子供にするように上から顔をのぞきこまれて、なんとなく幸村は面はゆさを感じた。
頬が朱がかかったのを隠すために、左近の耳元にそっと顔を近づける。
「その、三成殿は、きっと喜んでいらっしゃると思います」
幸村のささやきに、左近はきょとんと目を見張り、
「……あー。ま、そうだろうな。わかってるさ」
と苦笑を浮かべた。
「殿がややこしい性格でいらっしゃることは身にしみてる」(特にあんたに関しては)
「あ……、そ、そうですよね!」
幸村ははっとなった。
(しまった)
わざわざ自分が言うまでもないことだ。何よりも、幸村よりも彼のほうが、ずっと三成とのつきあいは長いというのに……
このような些細なやりとりで、左近が気を悪くしたり、三成を誤解したりすることなどあり得ないではないか。
「す、すみません」
幸村はこの上ないいたたまれなさを感じて、いますぐにここから立ち去りたい思いだった。
するとふと、兼続のほうを見たままで三成がぽつりと言った。
「……左近、そういえば俺からも話があった」(いまのは何だ……左近……)
「……え?」(……見てらしたんで?)
「おまえのほうこそ、少々呑みすぎているのではないか。明日が心配だ。二日酔いになどならねばよいが」(耳打ちか。ああ耳打ちか。良い身分だなあ、左近)
「あ、いや大丈夫ですよ」(わざとじゃないんですが…って、駄目ですかそうですか)
「いや、酷くなる前に薬をやろう。来い」(ちょっと城の裏まで来い、左近。シメる)
三成はすっと立ち上がると、「いや、結構ですって」と遠慮する左近を促し、宴会の開かれている大広間から出て行った。
(お二人は、仲がよろしいのだな……)
そのような二人をぼんやりと見送って、少々分かりづらいながらも仲むつまじい主従二人のようすに、幸村はなんとなくうらやましさを覚える。
(あ……、そうだ、兼続殿)
そういえば、三成殿が出て行かれたということは、兼続殿はお暇になったのだろうか。それなら話ができるかもしれない。と、ほのかな期待を込めて幸村は兼続のほうに顔を向けた。
「かねつ……」
しかし言いかけて、すぐに口を閉じる。
いつのまにそこにいたのか、秀吉と歓談していたはずの景勝が、戻ってきて兼続となにやら話し込んでいたからだ。
「……兼続」(さきほど、治部と何を話しておったのだ)
「ああ、それでしたら」(幸村のことですよ。最初のほうは治水の話でしたが)
景勝の目を見つめ、にこり、と兼続はほほえむ。
「……そうか」(……あいかわらず、おまえは幸村をかまいつけているのだな)
「ええ、ですが景勝様も」(幸村のことは可愛がっていらっしゃるでしょう?)
「む」(また幸村と静かに酒を呑みたいものだ。このような場所は騒がしくて好かぬ)
景勝がボソリと言い鷹揚に頷くと、兼続も心得たというように頷き返した。
「では、後で声をかけておきましょう」(そうおっしゃられると思っておりました)
「うむ」
兼続は口をとじたまま、さらに景勝になにやら目配せをする。
「……ああ、ですが」(さすがに領地まで招くことはむずかしいでしょう)
と、そこで景勝の表情がかすかに険しくなる。
「む、そうか」
「こればかりは」(大坂屋敷であれば、幸村も応じてくれましょう)
兼続が目を細め、呼応するようにゆっくりと景勝が頷く。
「なら、良い」(楽しみにしている)
「はい」(だからって必要以上に酒をすすめないで下さいね。でないと呼びません)
「……む」(わ、わかった。そうしよう)
そこで話は終わったようだった。
「……では、そのように」*
(なに、が????)
……景勝は、もともと口数の少ない御仁だ。
だがひとつひとつの声は重く、しっかりとしたもので、決して幸村が聞き漏らしたわけではない……、と、思う。
――と、思うのだが、
(なにが、そのようになのだろうか……)
いまのやりとりから、幸村には、まったくもって話の内容を推測することができなかった。
かろうじてわかったのは、景勝と兼続、二人の間で何かのとりきめが交わされたということ。たったあれだけの言葉でも、二人の間では話が通じているということだけだ。
(お二人には、お二人だけの言葉がおありになるのだろうか)
半ばぽかんとしたまま、しばらく幸村は動けなかった。
どのくらい、そのまま惚けていたのだろうか。
「あっ……」
ひゅうっと頬に空気の流れを感じて、幸村はようやく我に返る。
ふらりと風の流れてくるほうへ視線をやれば、ちょうど三成たちが広間にもどってきたことが知れた。
三成のあとに続く左近は、さきほどよりもどことなく顔色が悪い。
(やはり左近殿は酔われておいでだったのだ)
と、幸村はさとった。(本当は三成にシメられただけだが)
自分は、まったく気がつかなかったというのに。三成殿は、お顔に出る前に左近殿の異変に気付かれたのか。
すごい。素直にそう感じて、幸村は三成を尊敬のまなざしで見た。
(やはり、主従の絆というのはそれほどに深いものなのですね)
しかし、感じ入ると同時に、抑えようのない痛みが胸をチクチクと刺してくる。
「うらやましいです……」
思わず呟いて、
(そうか、私はうらやましいのか……)
と、幸村は自覚した。
兼続たちにしても三成たちにしても、見えない何かによって、深いところで繋がっているということに気付かされてしまった。
景勝さまと兼続殿、三成殿と左近殿。――そして、三成殿と兼続殿も。
方々には、幸村には決して入り込めない暗黙の了解がある。
(さびしい)
そう思うと、いままで以上に、ぽつんと一人取り残されているような気がした。
そのうえ、三成たちの会話に加われなかった悔しさや、いまの自分には主と仰ぐ御方もいないということ、お館さまとだって、彼らのように仲むつまじくあれたわけではない……、などという切ない思いが次々とこみ上げてきて、いまにも泣き出してしまいそうになった。
入ってくるな、と言われたわけではない。
拒まれたわけでもない。
けれど己と三成たちとの間には、見えない壁があるようように、幸村には感じられたのだった。
「――幸村?」
そのときふと、さらりとした赤みがかった髪が視界の端で動いた。
自然と俯いてしまっていた顔を上げれば、さきと同じように眉根を寄せた表情をして、三成が幸村のことをのぞき込んでいた。
「み、…つなり、どの」
「どうした、やはり気分が悪いのか」
そう言って、彼はそっと髪を撫でてくれる。
羽を撫でるような、やさしい指使いだった。ごくちかいところに三成の熱がある。私に触れてくれている。気遣ってくださっている……
たったそれだけのことがなぜか無性に嬉しくて、とうとう抑えきれずに目の奥がじんわりと熱くなる。
(だめ、だ……!)
慌てて顔を伏せたが、三成には見られてしまったらしい。
「ゆ、幸村?!」
と、どこか焦ったように、髪から彼の温もりが遠ざかる。
「どうした、何があった幸村」
「……ち、ちがっ」
せっかく問うてくれたというのに答えられなくて、幸村はますます悲しくなった。
うまく、言えない。し、言ってはいけないと思う。
(言葉が無くても通じ合えるくらいに、私のことも深く想ってほしいなんて……)
ただでさえ彼らと幸村は、七つも歳が離れている。本来なら気安くさせていただけるような立場でもない。
なのに彼らは幸村のことはできる限り、友として対等に扱ってくれるし、必要以上に気をつかってくださりもする。
それだけで十分ではないか。これ以上わがままを言ってお二人を困らせてどうするのだ……
「ほ、本当に何でもありませぬ。お話を邪魔してしまって、すみません。どうか私ことはお気になさらず…」
しかしそうして告げた声は、幸村の耳にも泣きそうに聞こえるものでますます焦った。あまりにも不自然だ。これではうまくごまかせそうにない。
さらにそこへ、兼続の声まで近づいてきた。
「どうしたのだ幸村。三成になにかされたのか!?」
「な、何を言う! 俺は何もしていない」
「では、なぜ幸村はそなたを前にして、顔を上げられずにいるのだ」
ごく低い声で兼続は三成を詰問し始める。
とたんに辺りの空気がぴりぴりとした怒気をはらんだことをさとって、幸村はさあっ青ざめた。
ぎゅっと目を閉じて涙を奥へ追いやってから、
「あ、あの、違います! 三成殿は悪くありません」
と顔を上げて必死に告げる。
「む、目が赤いではないか! やはり三成に何かされたのだろう?」
「いえ、そんなことは!」
再度言ったが、兼続は幸村の声を流して三成のほうへ視線を向けてしまっている。
「三成!」
「俺は幸村の髪を撫でただけだ」
「ではどうして幸村は泣いている」
三成はチッと舌打ちし言った。
「そんなもの、俺のほうが知りたいくらいだ!」
兼続も叫ぶ。
「さっさと白状しろ三成! 何をした!」
ますます声を荒げる二人に、幸村はもうどうしたらよいか分からなくなった。
(三成殿は何も悪くないのだ。ただ、方々の仲のよろしいごようすに、私がみっともなく拗ねていただけで……)
そう告げてしまえばさっさと誤解は解けただろうが、すぐに口にできなかったのは、幸村の胸を占める疎外感が、自覚以上に大きかったせいだろう。
ひょっとすると、酔いに流される気分でなかっただけで、頭のほうはすっかり酒にやられてしまっていたのかもしれない。
そうでなければこのとき、
「あ、あの、そうではないのです……!」
口論を続ける三成と兼続の、それぞれの袴の端をギュッと掴み、
「お二人が、私に何もしてくださらないからいけないのです!」
と、まるで彼らが悪いように、訴えたりなどしなかったに違いない。
いつもならもう少しまともに働くはずの、幸村のとりえともいえる自制の強さやら思慮深さといったものがぺろりと剥がれ落ちて、どこかに失せてしまったのだ。
「……な、何もしなかった?」
「そ、それはどういう意味だ? 幸村」
同時にこちらを振り返って、機嫌をうかがってくださろうとするお二人の顔をじっとみつめ、
「それは、その」
みっともないと思いながらも、幸村は我慢できずに、ほとんど消え入りそうな声でささやいた。
「ですから、わ、……わ、私のことも、かまって、くださいませ……!」
七つも年上の友二人は、ぽかんと目を見開いた。
「…………」
「…………」
(呆れられた!)
幸村はあまりの羞恥に、すぐさま二人の袴から手を離そうとしたが、
「ゆ、幸村!」
「幸村っ!!」
なぜか鼻息の荒くなった二人に、その手を掴み返されて、逃げることは叶わなかった。
「み、三成殿? 兼続殿……?」
「そうか、そうだったのか、もっと早く言ってくれればよいものを! はあはあ」
「お前が望むならいくらでも構ってやろう、ふふふふふ」
と言った二人の声は妙にうわずったものだった。さらには人目もはばからず、ぎゅうぎゅうと抱きつかれて、
「え、あの、えと」
幸村は赤い顔のまま、目を白黒させるしかなかった。
あっちこっちを撫でられながら幸村が理解できたのは、
(呆れていらっしゃらない……の、だろうか?)
とりあえず、そこのところだけだった。
……そんな三人の傍らで、景勝と左近は呆れていた。
ニタニタした顔の三成たちに、腰を抱かれ髪やら頬やらを撫でられていることの意味にまったく気付いていないようすの幸村に、
(それは地雷だろう)
と、声にこそださなかったもの、二人の思いは一緒だ。
だらしなく目尻を下げて幸村をかまいつける、主と臣の姿はもはや見慣れたもので。
幸村の不安など、まったくもって杞憂でしかないということを、とにかく身に染みてこの二人は知っている。
(気付いていないのが当人の幸村だけというのも、らしいといえばらしいが)
ここがまだ、他の武将達も居並ぶ酒宴の席であることなどすっかり忘れている彼らに、一言「場所を考えなさい」と言ってやりたい。が、今の二人は聞く耳などもっていないに違いない。
それどころか、夏に雪が降るくらいに珍しい、幸村からの”おねだり”をされた二人に意見しては、後でどんな目にあわされるかわかったものではない。
左近はもとより、景勝も。
「……ま、どうですか。一杯」
「……うむ」
なので二人はそそくさとその場を離れると、被害の及ばない場所でもうしばらく平穏な酒を楽しむことにした。
”幸村を構っている最中に邪魔をしてはいけない”
これこそすなわち、不憫な主と従に通ずる暗黙の了解だった。
終
弱い者ならこの空気だけでも参ってしまうに違いないが、そこそこ酒に強く、かつそれほど呑んでもいない幸村は、なんとなくこの浮ついた空気から取り残されたような気分を味わっていた。
無意識ながらに、またひとつホウッと寂しげな息を吐く。それを見咎めたのか、幸村の耳に、すぐとなりに腰を下ろしている人の声が低くささやいた。
「どうかしたか、幸村」
「あ……、いえ、なんでもありません」
幸村は答え、はっとして苦笑を付け加えた。
「少し、酔ってしまったのかもしれません。きっと呑みすぎたのでしょう」
「そうか……それなら、もう下がって休め。秀吉様には、俺が」
やさしげな声と、気遣いの表情を添えられて、幸村はいそいで首を振った。
「い、いえ、それには及びません。少し休めば、大丈夫ですから」
「そうか……? それなら良いが…」
なおも幸村を気遣ってくれようとする三成に、「はい」としっかり頷いてみせ、精一杯にほほえむ。
そうすると三成は、きゅっと寄せられた眉をそのままにしながらも、もとのように彼の隣に腰を据えていた兼続に向き直った。
三成の興味が兼続に戻ったことを知って、幸村はほっと胸をなでおろす。
とっさのこととはいえ、つい口をついて出てしまったそれらしい言い訳のせいで、三成にいらぬ心配をかけてしまったようだ。ほんとうに気分を悪くしたわけでも、酒に酔ったわけでもなかったから、うまくごまかせて安堵した反面、どうしようもなく申し訳ない気持ちになる。
酒宴のざわめきのなかから、
「幸村がどうかしたのか?」
「いや、少し酔ったらしい」
「なら、休ませてやったほうがいいのではないか?」
――と、いった、まだ気遣ってくださる兼続らのやさしげな声が耳にとどいて、幸村はさらに頭を下げたい衝動にかられた。
(邪魔を、してしまった)
つまらないことで、二人の話の腰を折ってしまった己の至らなさにしゅんとなる。
……分かっていた。
先程からうまく酒に酔えないのも、ちくちくと胸が痛むのも、三成と兼続、この二人の会話の中にうまくはいっていけない己をふがいなく思うからだ。
(だからといって、邪魔したかったわけではないのに)
なのに、意図せず吐いたため息がその役目を果たしてしまって、なおさらいたたまれなくなる。
(今日の酒宴がはじまってからずっと、お二人だけで話されているといっても…)
それを邪魔する権利など、幸村にはないだろう。
しかしこうなるたび常々思うことは、敬愛する友の二人が、やけに遠い人のように感じるということだ。
三人でたわいない話をしているときはそうでもない。
だが、ひとたびそこに仕事の話が入り込んでくると、とたんに幸村はついてゆけなくなる。それが戦の話――たとえば、戦略や城の落とし方など――ならば、臆することなく発言もできるが、それが治世や貿易、検知のこととなってしまうといけない。
決して、幸村がそれらに関して疎いというわけではなかったが、彼らとの立場の違いが口を重くしてしまうのだ。
佐和山城主である三成と、上杉家筆頭家老として采配を振るう二人の間に、国一つもたないただの将である幸村が、わざわざしゃしゃり出る必要などない。
そう、思うばかりに、気がつけばぼんやりと二人の声に耳を傾けているしかなくなる。
それは友二人との立場の違いを、否応にも見せつけられるようで、少し胸が痛い。
(それに……)
幸村は、またしても零れそうになったため息を何とか呑み込んで、ちらりと二人を眺め見た。
――こうして、真剣な顔つきで話し合う二人のその御姿の、なんと美しいことか。
もともとが麗しい二人だが、多く人が集まる席にあればあるほど、その器量の良さがいかに人並み外れているかに気付かされる。
幸村に絵の才があれば、この瞬間を紙の上に描きとめただろう。歌を詠むのに優れていれば、筆を動かしただろう。
それほどに、友二人が並ぶ姿は美しい。先程から、酒気を帯びた目で、まるで鑑賞するようにちらちらと二人に視線を流す者達だっている。
そんな二人の間に割って入るにも、凡庸な見目である(と、思っている)幸村には少々勇気が要ることだ。
と、そこへ、三人の傍でまったりと杯を傾けていた人からの声がかかった。
「ちょいといいですかね」
「左近殿…!」
三成と幸村の間にぬっと顔を出した左近は、小さく会釈して言った。
「殿、とーの、お話があるんですが」
気付かずに兼続との話を続けていた三成の肩をゆさぶり、彼は継げる。
「少しなんで、聞いてもらえませんかね」
三成は少々不機嫌そうな顔つきで、左近を振り返った。*
「なんだ左近」(というか貴様、俺と幸村の間に割り込むとはいい度胸だな)
「いえね、今日はいつもよりも酒がすすんでらっしゃるように見えましたんで。いちおう言っておこうかと」(すみませんね、話が終わったらどきますよ)
「それがどうした」(いますぐ、消えろ。幸村が穢れる)
「呑むのは構いませんが、ご自分の体調を考えてくださいね。明日も普通に政務がありますから」(穢れるって……、なんで左近が近づくと穢れるんですか)
「そのくらいのこと、わかっている。余計な世話だ」(ハッ。加齢臭がうつる)
「はあ……」(か、加齢って……! さすがにひどいですよ、殿)
「わかったなら、もう邪魔をするな」(というか幸村が見えん!気配が遠い!)
「はいはい、わかりましたよ」(…すいませんねえ。もう好きにしてください)
左近は、やれやれというように肩をすくめた。己の言が聞き入れられなかったことで気落ちしたように席を立とうとしたが、幸村には、その瞬間三成の顔つきがやわらかくなったのがわかった。
迷惑そうな口ぶりでも、きっと左近の気遣いを、三成なりに嬉しく思っているのだろう。(ただしくは、左近がどいたことに満足しただけなのだが)
「左近殿」
そう、思った瞬間、幸村は左近を呼び止めていた。
「……あの」
「ん? どうした、幸村」
幸村が腰を下ろしていて、左近は立っているのだから仕方がないが、幼い子供にするように上から顔をのぞきこまれて、なんとなく幸村は面はゆさを感じた。
頬が朱がかかったのを隠すために、左近の耳元にそっと顔を近づける。
「その、三成殿は、きっと喜んでいらっしゃると思います」
幸村のささやきに、左近はきょとんと目を見張り、
「……あー。ま、そうだろうな。わかってるさ」
と苦笑を浮かべた。
「殿がややこしい性格でいらっしゃることは身にしみてる」(特にあんたに関しては)
「あ……、そ、そうですよね!」
幸村ははっとなった。
(しまった)
わざわざ自分が言うまでもないことだ。何よりも、幸村よりも彼のほうが、ずっと三成とのつきあいは長いというのに……
このような些細なやりとりで、左近が気を悪くしたり、三成を誤解したりすることなどあり得ないではないか。
「す、すみません」
幸村はこの上ないいたたまれなさを感じて、いますぐにここから立ち去りたい思いだった。
するとふと、兼続のほうを見たままで三成がぽつりと言った。
「……左近、そういえば俺からも話があった」(いまのは何だ……左近……)
「……え?」(……見てらしたんで?)
「おまえのほうこそ、少々呑みすぎているのではないか。明日が心配だ。二日酔いになどならねばよいが」(耳打ちか。ああ耳打ちか。良い身分だなあ、左近)
「あ、いや大丈夫ですよ」(わざとじゃないんですが…って、駄目ですかそうですか)
「いや、酷くなる前に薬をやろう。来い」(ちょっと城の裏まで来い、左近。シメる)
三成はすっと立ち上がると、「いや、結構ですって」と遠慮する左近を促し、宴会の開かれている大広間から出て行った。
(お二人は、仲がよろしいのだな……)
そのような二人をぼんやりと見送って、少々分かりづらいながらも仲むつまじい主従二人のようすに、幸村はなんとなくうらやましさを覚える。
(あ……、そうだ、兼続殿)
そういえば、三成殿が出て行かれたということは、兼続殿はお暇になったのだろうか。それなら話ができるかもしれない。と、ほのかな期待を込めて幸村は兼続のほうに顔を向けた。
「かねつ……」
しかし言いかけて、すぐに口を閉じる。
いつのまにそこにいたのか、秀吉と歓談していたはずの景勝が、戻ってきて兼続となにやら話し込んでいたからだ。
「……兼続」(さきほど、治部と何を話しておったのだ)
「ああ、それでしたら」(幸村のことですよ。最初のほうは治水の話でしたが)
景勝の目を見つめ、にこり、と兼続はほほえむ。
「……そうか」(……あいかわらず、おまえは幸村をかまいつけているのだな)
「ええ、ですが景勝様も」(幸村のことは可愛がっていらっしゃるでしょう?)
「む」(また幸村と静かに酒を呑みたいものだ。このような場所は騒がしくて好かぬ)
景勝がボソリと言い鷹揚に頷くと、兼続も心得たというように頷き返した。
「では、後で声をかけておきましょう」(そうおっしゃられると思っておりました)
「うむ」
兼続は口をとじたまま、さらに景勝になにやら目配せをする。
「……ああ、ですが」(さすがに領地まで招くことはむずかしいでしょう)
と、そこで景勝の表情がかすかに険しくなる。
「む、そうか」
「こればかりは」(大坂屋敷であれば、幸村も応じてくれましょう)
兼続が目を細め、呼応するようにゆっくりと景勝が頷く。
「なら、良い」(楽しみにしている)
「はい」(だからって必要以上に酒をすすめないで下さいね。でないと呼びません)
「……む」(わ、わかった。そうしよう)
そこで話は終わったようだった。
「……では、そのように」*
(なに、が????)
……景勝は、もともと口数の少ない御仁だ。
だがひとつひとつの声は重く、しっかりとしたもので、決して幸村が聞き漏らしたわけではない……、と、思う。
――と、思うのだが、
(なにが、そのようになのだろうか……)
いまのやりとりから、幸村には、まったくもって話の内容を推測することができなかった。
かろうじてわかったのは、景勝と兼続、二人の間で何かのとりきめが交わされたということ。たったあれだけの言葉でも、二人の間では話が通じているということだけだ。
(お二人には、お二人だけの言葉がおありになるのだろうか)
半ばぽかんとしたまま、しばらく幸村は動けなかった。
どのくらい、そのまま惚けていたのだろうか。
「あっ……」
ひゅうっと頬に空気の流れを感じて、幸村はようやく我に返る。
ふらりと風の流れてくるほうへ視線をやれば、ちょうど三成たちが広間にもどってきたことが知れた。
三成のあとに続く左近は、さきほどよりもどことなく顔色が悪い。
(やはり左近殿は酔われておいでだったのだ)
と、幸村はさとった。(本当は三成にシメられただけだが)
自分は、まったく気がつかなかったというのに。三成殿は、お顔に出る前に左近殿の異変に気付かれたのか。
すごい。素直にそう感じて、幸村は三成を尊敬のまなざしで見た。
(やはり、主従の絆というのはそれほどに深いものなのですね)
しかし、感じ入ると同時に、抑えようのない痛みが胸をチクチクと刺してくる。
「うらやましいです……」
思わず呟いて、
(そうか、私はうらやましいのか……)
と、幸村は自覚した。
兼続たちにしても三成たちにしても、見えない何かによって、深いところで繋がっているということに気付かされてしまった。
景勝さまと兼続殿、三成殿と左近殿。――そして、三成殿と兼続殿も。
方々には、幸村には決して入り込めない暗黙の了解がある。
(さびしい)
そう思うと、いままで以上に、ぽつんと一人取り残されているような気がした。
そのうえ、三成たちの会話に加われなかった悔しさや、いまの自分には主と仰ぐ御方もいないということ、お館さまとだって、彼らのように仲むつまじくあれたわけではない……、などという切ない思いが次々とこみ上げてきて、いまにも泣き出してしまいそうになった。
入ってくるな、と言われたわけではない。
拒まれたわけでもない。
けれど己と三成たちとの間には、見えない壁があるようように、幸村には感じられたのだった。
「――幸村?」
そのときふと、さらりとした赤みがかった髪が視界の端で動いた。
自然と俯いてしまっていた顔を上げれば、さきと同じように眉根を寄せた表情をして、三成が幸村のことをのぞき込んでいた。
「み、…つなり、どの」
「どうした、やはり気分が悪いのか」
そう言って、彼はそっと髪を撫でてくれる。
羽を撫でるような、やさしい指使いだった。ごくちかいところに三成の熱がある。私に触れてくれている。気遣ってくださっている……
たったそれだけのことがなぜか無性に嬉しくて、とうとう抑えきれずに目の奥がじんわりと熱くなる。
(だめ、だ……!)
慌てて顔を伏せたが、三成には見られてしまったらしい。
「ゆ、幸村?!」
と、どこか焦ったように、髪から彼の温もりが遠ざかる。
「どうした、何があった幸村」
「……ち、ちがっ」
せっかく問うてくれたというのに答えられなくて、幸村はますます悲しくなった。
うまく、言えない。し、言ってはいけないと思う。
(言葉が無くても通じ合えるくらいに、私のことも深く想ってほしいなんて……)
ただでさえ彼らと幸村は、七つも歳が離れている。本来なら気安くさせていただけるような立場でもない。
なのに彼らは幸村のことはできる限り、友として対等に扱ってくれるし、必要以上に気をつかってくださりもする。
それだけで十分ではないか。これ以上わがままを言ってお二人を困らせてどうするのだ……
「ほ、本当に何でもありませぬ。お話を邪魔してしまって、すみません。どうか私ことはお気になさらず…」
しかしそうして告げた声は、幸村の耳にも泣きそうに聞こえるものでますます焦った。あまりにも不自然だ。これではうまくごまかせそうにない。
さらにそこへ、兼続の声まで近づいてきた。
「どうしたのだ幸村。三成になにかされたのか!?」
「な、何を言う! 俺は何もしていない」
「では、なぜ幸村はそなたを前にして、顔を上げられずにいるのだ」
ごく低い声で兼続は三成を詰問し始める。
とたんに辺りの空気がぴりぴりとした怒気をはらんだことをさとって、幸村はさあっ青ざめた。
ぎゅっと目を閉じて涙を奥へ追いやってから、
「あ、あの、違います! 三成殿は悪くありません」
と顔を上げて必死に告げる。
「む、目が赤いではないか! やはり三成に何かされたのだろう?」
「いえ、そんなことは!」
再度言ったが、兼続は幸村の声を流して三成のほうへ視線を向けてしまっている。
「三成!」
「俺は幸村の髪を撫でただけだ」
「ではどうして幸村は泣いている」
三成はチッと舌打ちし言った。
「そんなもの、俺のほうが知りたいくらいだ!」
兼続も叫ぶ。
「さっさと白状しろ三成! 何をした!」
ますます声を荒げる二人に、幸村はもうどうしたらよいか分からなくなった。
(三成殿は何も悪くないのだ。ただ、方々の仲のよろしいごようすに、私がみっともなく拗ねていただけで……)
そう告げてしまえばさっさと誤解は解けただろうが、すぐに口にできなかったのは、幸村の胸を占める疎外感が、自覚以上に大きかったせいだろう。
ひょっとすると、酔いに流される気分でなかっただけで、頭のほうはすっかり酒にやられてしまっていたのかもしれない。
そうでなければこのとき、
「あ、あの、そうではないのです……!」
口論を続ける三成と兼続の、それぞれの袴の端をギュッと掴み、
「お二人が、私に何もしてくださらないからいけないのです!」
と、まるで彼らが悪いように、訴えたりなどしなかったに違いない。
いつもならもう少しまともに働くはずの、幸村のとりえともいえる自制の強さやら思慮深さといったものがぺろりと剥がれ落ちて、どこかに失せてしまったのだ。
「……な、何もしなかった?」
「そ、それはどういう意味だ? 幸村」
同時にこちらを振り返って、機嫌をうかがってくださろうとするお二人の顔をじっとみつめ、
「それは、その」
みっともないと思いながらも、幸村は我慢できずに、ほとんど消え入りそうな声でささやいた。
「ですから、わ、……わ、私のことも、かまって、くださいませ……!」
七つも年上の友二人は、ぽかんと目を見開いた。
「…………」
「…………」
(呆れられた!)
幸村はあまりの羞恥に、すぐさま二人の袴から手を離そうとしたが、
「ゆ、幸村!」
「幸村っ!!」
なぜか鼻息の荒くなった二人に、その手を掴み返されて、逃げることは叶わなかった。
「み、三成殿? 兼続殿……?」
「そうか、そうだったのか、もっと早く言ってくれればよいものを! はあはあ」
「お前が望むならいくらでも構ってやろう、ふふふふふ」
と言った二人の声は妙にうわずったものだった。さらには人目もはばからず、ぎゅうぎゅうと抱きつかれて、
「え、あの、えと」
幸村は赤い顔のまま、目を白黒させるしかなかった。
あっちこっちを撫でられながら幸村が理解できたのは、
(呆れていらっしゃらない……の、だろうか?)
とりあえず、そこのところだけだった。
……そんな三人の傍らで、景勝と左近は呆れていた。
ニタニタした顔の三成たちに、腰を抱かれ髪やら頬やらを撫でられていることの意味にまったく気付いていないようすの幸村に、
(それは地雷だろう)
と、声にこそださなかったもの、二人の思いは一緒だ。
だらしなく目尻を下げて幸村をかまいつける、主と臣の姿はもはや見慣れたもので。
幸村の不安など、まったくもって杞憂でしかないということを、とにかく身に染みてこの二人は知っている。
(気付いていないのが当人の幸村だけというのも、らしいといえばらしいが)
ここがまだ、他の武将達も居並ぶ酒宴の席であることなどすっかり忘れている彼らに、一言「場所を考えなさい」と言ってやりたい。が、今の二人は聞く耳などもっていないに違いない。
それどころか、夏に雪が降るくらいに珍しい、幸村からの”おねだり”をされた二人に意見しては、後でどんな目にあわされるかわかったものではない。
左近はもとより、景勝も。
「……ま、どうですか。一杯」
「……うむ」
なので二人はそそくさとその場を離れると、被害の及ばない場所でもうしばらく平穏な酒を楽しむことにした。
”幸村を構っている最中に邪魔をしてはいけない”
これこそすなわち、不憫な主と従に通ずる暗黙の了解だった。
終
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